ログインはこちらから



メンバー登録

読書日記を書く


遠まわりする雛 (角川文庫)



評価
著者 米澤穂信
出版社 角川書店(角川グループパブリッシング)
読者 男性あきゃさん
読書日 2010年07月27日(火)
発売日 2010-07-24
書籍コード ASIN:4044271046 ISBN:9784044271046
値段 660円
形態 文庫 10.6×14.8×1.8cm 全410ページ

 コメント

神山高校にある‘古典部’という部活動を背景にした、日常の謎を解明していく<古典部>シリーズの第4作となる短篇集である。

過去3作がいずれも主人公・折木奉太郎とヒロインの役どころである千反田える、それに福部里志と伊原摩耶花の4人で全ての一年生部員を中心にした、高校一年のある時期に特化した長篇であるのに対し、本作は高校一年の折々の小さな出来事を題材にした話としてまとめ上げられているので、シリーズ読者としては、登場人物の一年間を俯瞰出来たような感覚が得られ、その意味では面白かった。
だが、単純に‘日常の謎系’ミステリーとして評価すると、ややミステリーのネタにスタンスが偏っていて、登場人物の行動に不自然さが残る点もないわけではない。
特に主人公の折木奉太郎は、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーとするキャラとして設定されているが、これだけシリーズ化してしまうとプロットを組む上での足枷になってしまっているきらいがある。著者もこの点に気付いているので、奉太郎がそのモットーに反した行動を取らねばならない状況をわざわざ創り上げた上で事ある毎に奉太郎にその事を嘆かせてはいる。そしてその部分こそが本シリーズのファンに対するお約束というかサービス的要素になっているとも云えるのだが、この場合奉太郎に依怙地にそのようなある種偏屈とも云えるモットーにしがみつかせるよりも、仲間との交流を通じて奉太郎の心理に変化が生じる、もっとハッキリ云ってしまえば精神的成長を遂げる、という描き方にしてもいいのではないかと思う。
一応本作に於いて、その予兆的な短篇は含まれており、この先の展開はそちらの方向に進むのかも知れないが、その意味ではちょっとステップが遅いかな、という印象は拭えない。

また、高校生にしては妙に頭でっかちなキャラが多いのもあまり自然ではない。謎に気付き、推理を組み立て、背景を読み切る役回りを主人公が果たさないとミステリー小説は成立しないので、奉太郎がクールなキャラクター造形になるのはある程度仕方がないとは思う。だが一方で本書は高校生の学校生活を描いた青春小説的側面を併せ持っており、もう少し情動的な部分があってもいいように思える。本書でもバレンタインデーを巡り、里志に思いを寄せる摩耶花と里志の込み入ったやり取りが交わされる一篇があるが、これなどを読むと、恋愛絡みの話の割にはそこから見えて来る心象風景は恋愛を論理によって考える人間模様である。著者は敢えてそこに恋愛に対して未熟で不器用な一高校生の姿を描いて見せたのかも知れないのだが、だとしても感情面を過剰に抑え込んだ心模様はあまり爽やかではない。逆に登場人物が20代くらいであったとすれば、社会的理由で己の感情を抑圧する、というキャラクターがいても理解できるが、他の部分で幼さが描かれている分だけ、そのヘンな分別臭さが異様に際立ってしまうのである。
物語的には、もう少しストレートに感情的に苦悩するところがあっていいように思うのだが、この著者は好みの問題なのか単純に不得手とするからかかは分からないが、そういう描写をしない。だがそここそが、個人的に物足りなく思う部分である。

ただ、シリーズとしてはこの先もあるし(少なくともハードカバー版が1冊既刊)、ヒロインである千反田の精神的成長というのは本書でキチンと表現されていた。更には、上にも書いた通り奉太郎の心境の変化を予感させる話が含まれているので、次作以降、それぞれのキャラクターがどう変わっていくかには注目してみたいと思う。

全体のクオリティとしては必ずしも高いとは思わなかったし、正直強烈に印象に残る作品はなかったのだが、シリーズのファンとしてはまぁその辺りは目を瞑ってもいい、という感じ。

同じ著者の本

米澤穂信さんが著者の本の日記です。

インシテミル (文春文庫)

(米澤穂信/文藝春秋)
2010年06月15日(火) あきゃさん

11万2千円という高額な時給につられて集まった短期アルバイト志望者12人が山奥にある館の地下に幽閉され、 殺し合いを強要される。殺しを成功させた者には更にボーナス、事件を解決した者にもボーナス、参加者の多数決によって犯人と認められた者は時給減額の上牢に幽閉されるというルールの中、参加者が互いに疑心暗(..続く)


このページのトップへ