60歳からの青春18きっぷ (新潮新書)
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発売・使用期間限定ながらJR全線で普通列車と快速列車が乗り放題になる「青春18きっぷ」を使った旅行ガイド書。
「青春18きっぷ」は5回分綴りで、日帰り旅行×5回で使っても、連続した旅で使っても、同じ旅程であるなら複数人数で同時に使ってもよく、またその名前から誤解されがちだが決まった年齢制限もない、お得な切符である。単純計算すれば往復で合算するケースを含め一日2300円以上の運賃になればモトが取れてしまう。本書ではこうした「青春18きっぷ」の基本的な特性を冒頭で解説した後、時刻表の読み方といったような鉄道旅行の初心者が旅程を組むのに必要な基礎知識を説明した上で、各大都市圏からの旅のプランを数多く提案している。
この著者は「旅と鉄道」誌のデスクを務めた後独立し、現在は紀行作家となったそうだが、そうした経歴が本書でも十二分に生かされている。本署で紹介されたプランの内容はそれぞれ趣向を凝らしたものになっていて、列車移動一辺倒でなく途中下車しての見どころなどの案内もあり、旅に出たい気分をそそられる。日帰りコースなら気軽に回りながらも観光ポイントを押さえた設定をしているし、3泊4日コースなら思いきった遠出も可能であることを教えてくれる。また、温泉巡りやそばの食べ歩き、俳人松尾芭蕉の足跡を追うといったテーマチックな企画案も掲載されており、幅広いニーズに応じた、痒い所に手の届く旅行案内である。
ただ、挙げられた旅程を詳しく眺めていると、中には殆んど一日中列車に乗りっぱなしという日が混じっているケースもあったりして、それを実行するとくたびれてしまうのではないかと、以前友人2人と「青春18きっぷ」を使った旅をし、4時間列車に乗り通しになってその友人達から散々非難を浴びた身としては心配しなくもない部分もある。
とはいえそもそも本書の趣旨は、安上がりの「青春18きっぷ」を活用した、鈍行列車でのんびりした時間を楽しむ旅、というところにあるので、あらかじめそういった気構えでいれば長時間列車に揺られている事も楽しめるだろう。著者も車中での退屈しのぎに文庫本を携帯していく事を勧めたり、疲れたら車内で居眠りするのもまた良しと説いたり、更には「青春18きっぷ」にあまりこだわり過ぎずに別途料金はかかるものの新幹線や特急、果ては長距離バスで移動する日を旅程に組み入れるというウラ技もアリだと積極的に認めるなど、柔軟性のある対応策を示している。
鉄道オタクと呼ばれるような人種がこうした旅行プランを作るとどうしても近視眼的になって、いかに「青春18きっぷ」を使い倒して通常運賃との差額を大きくするかにこだわり過ぎてしまい、結果出来上がったものはものすごい強行軍になる行程になりがちなのだが、本書はあくまで旅を楽しむ事を主眼に置く、という立ち位置をキチンと保っている点で一般向けの本として非常に評価できる。
タイトルが‘60歳からの’と対象年齢を絞っているのは、2泊以上の旅程が比較的容易に組めるほど時間的な余裕を持つ、定年退職した人口の多い団塊の世代というターゲットを狙ってつけられたものだと想像される。だが、該当の年齢以外の人でも日帰り旅行や1泊2日、或いは有給休暇を活用してもう少し長い期間の旅行計画を立てる際には全編において参考になる。
またそう読むにはややあっさりして物足りなく思える面もあるが、単純に紀行文代わりとして紙上旅行を楽しむ事も出来る。
幅広い読み方を可能とする、なかなかの良書であった。





あきゃさん 