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読書日記を書く


片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫 み 40-2)



評価
著者 道尾秀介
出版社 新潮社
読者 男性あきゃさん
読書日 2010年03月01日(月)
発売日 2009-06-27
書籍コード ASIN:4101355525 ISBN:9784101355528
値段 540円
形態 文庫 10.6×15.2×1.4cm 全350ページ

 コメント

ある楽器メーカーからライバル会社によるデザイン盗用疑惑の解明を依頼された主人公の探偵・三梨が、同業者だった冬絵をスカウトして調査を進めるうち、調査先の企画部長が殺される事件に巻き込まれていく、というストーリー。

本書解説分と被るが、本作はミステリー小説の態をなしているものの、著者の目論見はある重いテーマについて書く事に第一義があって、その表現手段としてミステリーの形式を借りたようにすら思える。
基本的に軽妙なタッチの描写も、テーマの重みを和らげる意図で選択した事が想像できる。というかそのテーマについては実は深刻な問題ではないし、また深刻に捉えるべきではない、というのが文体そのものを含めメッセージとして込められているように感じた。

だが、その隠しテーマを温存する事とミステリー作品としての謎が混合して存在するため、特に前半部分では何が何やら状況が全く把握できないまま物語が進行していくので、読み手は非常に戸惑う。
かなりの数の伏線が用意された作品で、結末に向かうに従ってパタパタとカードが開かれていくような展開には確かにある種の快感があるのだが、その用意された伏線の分だけ序盤の描写は抽象味を帯びたものになり、あたかもジグソーパズルのピースの断片を呆然と眺めている気分になる。謎の盛り込み方がちょっぴり過剰なのだ。
勿論ミステリー小説の醍醐味は謎解きにあり、その謎も単純に過ぎると読み手の要求する水準を満たさないワケではあるが、その一方で読み手をいかに速やかに物語の世界に引き込むか、という点も作家の腕の見せ所ではある。
本書は一応最低限、読み手を作品世界に留めておくだけの配慮はしているが、主人公自身にも謎の面が設定されているため、安心して主人公目線でストーリーに没入する事が出来ない。その不安定な感覚が読み手にやや居心地の悪さを感じさせる。

また隠しテーマにしても、途中である程度のところまでは読み手が予測できるように少しづつ明かされていく作りにはなっているが、最後に全て明かされるくだりでは、その秘められていたやや極端なきらいのある設定に正直ちょっとひいてしまった部分もある。不本意な事ではあるが、その場面でひかれるのはそのテーマを描きたかった著者にとっても恐らく不本意なのではないか。

ミステリーという一般に親しみやすいスタイルにテーマ性のある主張を込める、という手法自体はアリだと思う。面白く読めて、なおかつその後に色々考えさせられる作品を創り上げるのは決して簡単なことではないハズだし、それをそれなりに成功させている点に於いて本書は評価できる作品だと思う。
ただ、テーマそのものに関わる事をサプライズに用いる事は、時にそこに込められたメッセージを軽くさせてしまう危険性がある。
色々な意味で、名作にあと一歩届かない、惜しい作品だ。

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